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東京高等裁判所 昭和25年(う)988号 判決 1950年7月13日

被告人

宮部

主文

原判決を破棄する。

被告人宮部を懲役四年に処する。

当審における未決勾留日数一〇〇日を右本刑に算入する。

理由

前略。

控訴趣意第一点について。

原判決が、被告人が本件犯行当時、心神耗弱の状態にあつたものと認定したことは、所論の通りであるが、これをもつて直ちに、右犯行の翌日たる昭和二十四年六月三十日に、司法警察員の作成した被告人の供述調書や、その十数日後になる同年七月十二日に、検事の作成した被告人の供述調書に各記載された供述内容が、任意にされたものでない疑のあるものと為すことはできない。却つて右各供述調書の内容、及び形式と、原審に顕れた、その余の証拠とを比照検討するときは、右各供述調書記載の供述が任意にされたものであることを肯認するに十分であるから、右各供述調書が、証拠能力を有することは明らかである。従つて、原審がこの点について、ことさら、作成者の審問を行わず、又被告人の供述を求めないで、右各調書を証拠に援用したからとて、これは、採証を誤つたものでもない。原判決には、所論のような理由不備はない、論旨は、理由がない。

同第二点について。

原判決援用の佐藤愛二作成の被害届添付の、医師の診断書は、医師喜島惟栄なる佐藤愛二とは、別個の人格者の作成した書面であることは所論の通りである。しかしながら、右被害届は、右診断書を添付して被害内容については、別紙診断書の通りで、専ら、同診断書の記載によつたものであるから、右診断書の記載は、右被害届の内容を為すものであることが明らかである、従つて、原審第一回公判調書に記載された「被害届」とは、右診断書を添付したこれと、一体を為す被害届を指すものであつて、検察官は、原審公廷において、かかる診断書を含む書面について、証拠調を請求し、その朗読をしたものであるから、右診断書については、適法に証拠調の手続が行われたものである。なお、原判決の証拠摘示中、被害者佐藤愛二作成による被害届添付の診断書(医師喜島惟栄作成)中判示傷害の部位に照応する記載とあるは、右診断書に示された傷害の結果の記載中、その程度、即ち、治癒日数に関する部分を除いたものを言うものであることは判示中明らかであるから、所論のように、右証拠摘示が不明確であつて、証拠理由として不備なものと為すことはできない。又原判決判示の傷害の治癒日数の点については、原判決の援用した検察官作成の被害者佐藤愛二の供述調書中の供述記載によつて明認し得るところである。受傷者が、病院から退院したからとて、その傷が全治したものと言い得ないことは、言うまでもない。原判決のこの点に関する証拠理由にも欠けるところはない。佐藤愛二が、原判決判示のような傷害を受けたことは、その援用にかかる右各書証によつて明らかである。論旨は、理由がない。

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